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東京地方裁判所 昭和43年(むのイ)570号 決定

被疑者 元木博

決  定 〈被疑者氏名略〉

右の者に対する傷害被疑事件につき、昭和四三年九月一六日東京地方裁判所裁判官田中加藤男のした勾留請求却下の裁判に対し、検察官武田昌造から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、末尾添付の検察官武田昌造作成の準抗告および裁判の執行停止申立書と題する書面(写)記載のとおりである。

二、本件関係記録によれば、被疑者の逮捕に関しては次の事実を認めることができる。

すなわち、被疑者が罪を行い終つてから、被害者らは警察官に被害を申告に赴き、その間被疑者は付近の喫茶店に入り、被害者らが犯行の現場付近に警察官を伴つて戻つたところ、付近にいた者が被害者らに対し、被疑者が喫茶店内に入つた旨告げたことから被害者らが同店に入り、被疑者を発見して逮捕したもので、罪を行い終つてからの時間は約三〇分経過し、右喫茶店は犯行の場所からは約二五メートル離れていた。

三、右の事実は刑訴法二一二条一項の現行犯および同法条二項二号ないし四号には当らない。そこで、同項一号に当るか否かを考えるに、なるほど被疑者を見ていた第三者が、喫茶店に入るのを認め、これを被害者に知らせることにより犯人の追呼が連続しているようにも思われるし、現実に被疑者を探知し得た結果ともなつている。しかしながら、同号にいう追呼は犯人を他と混同しない程度に明らかな客観性を有しなければならないと解するところ、本件においては、第三者がその追呼を連続して、それと断絶することなく被害者および警察官が追呼したものでなく、被疑者が喫茶店に入つた段階で犯人との接続が断たれたもので、これは単に追呼の途中犯人を一時見失つた場合とは異ると解さねばならない。よつて、本件逮捕は現行犯、準現行犯何れの逮捕も許されなかつたもので、違法な逮捕といわざるを得ない。

四、従つて、逮捕手続違法を理由に勾留請求を却下した原裁判は正当であり、検察官の本件準抗告の申立は理由がないから、同法四三二条、四二六条一項により、これを棄却することとする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 目黒太郎 片岡正彦 石井義明)

準抗告および裁判の執行停止申立書〈省略〉

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